私は姫路市外で育ったので、姫路駅前に出かけることを「姫路に行く」と表現していた。どうやら、姫路市内に住んでいる人も、同じように「姫路に行く」と言うらしい。
私の場合は、山と田んぼの田舎から、片道30分以上かけて車や電車で出向いて行くので、普段着で行くのは恥ずかしく、少しやつして(おしゃれをして)、十分に時間をとって、気合を入れ、帰りにはデパートの地下1階で生クリームののった豪華なケーキやドイツ風の堅いパンまで買って帰る行為、それが「姫路に行く」であった。
岩端町に住んでいた私の祖母にとっての「姫路に行く」は、自転車を10分ほどこぐだけの行為だ。同じ「姫路に行く」でも、全く感覚の違う行動なのである。「おばあちゃんと姫路で待ち合わせ」という日、別れ際に、「じゃあね」と適当に止めていた(約30年前は放置自転車が多かった)自転車で颯爽と帰って行った姿に驚いた。だって、私が友達と放課後に自転車で遊びに行くのと同じ感覚なのだから。
あれから、30年経ち、<城の西>で働くことになった。岩端町から姫路駅前まで自転車で行くことがあると、「姫路の人が自転車で颯爽と姫路に行く」という特別感に加え、姫路城に訪れた観光客に交じりながら、「地元の人でーす。自転車でーす。姫路城は庭でーす」という謎の優越感に浸っている。これは、城の西に住まう人にはたまらない感覚かもしれない。
ライター:misty